「十二歳」(椰月美智子)①

これこそがまさに「思春期の悩み」

「十二歳」(椰月美智子)講談社文庫

小学校6年生の鈴木さえ。
ポートボールが大好きで
友達もいっぱいいる
楽しい毎日だった。
でも、少しずつ
自分の中の
何かが変化していく。
頭と身体がちぐはぐで、
何だか自分が
自分でないみたいな
気がしてきて…。

初めてこの作品を読んだときは
驚きました。
ポートボールに
打ち込んでいるさえが、
地区対抗の大会で優勝した後、
学校対抗の一つ大きな大会へと
向かう場面から
物語はスタートします。
当然学校代表メンバーとして
チームを引っ張っていくのだろうと
安易な想像をしていました。
ところが、
チームを引っ張るどころか…、
キャプテンが怪我で
練習できないのを密かに喜ぶ、
大事な場面で動揺してミスを重ねる、
痛んでもいない足の故障を理由にして
練習を休む、
チームもポートボールも
どうでもよくなる。
最後まで立ち直ることなく、
負の連鎖が続くのです。

一般の少年少女のスポーツものとは
180度異なる展開です。
最後は卒業式の朝で締めくくられ、
明るい前向きな印象で終わるため、
読後はそれなりに爽やかなのですが、
「なぜ?」という疑問が
つきまといます。

でも、
再読してわかってきました。
むしろ現実的には
こちらの方があり得るのではないかと。
おそらく成長の過程で、
誰しもこのような時期を
迎えるのではないでしょうか。
人によってはそれが
高校生であったり、
中学生であったり。
さえの場合は(というよりも
おそらく作者の場合は)、
それが小学校6年生
12歳だったのではないでしょうか。

「記憶喪失になってしまった感じ。
 空白というより空欄。
 ひどいズレがある。
 今まで普通だったのに、
 すっかり分かれてしまった。
 頭だけが一メートル
 後ろにあるみたい」

さえはそれを
「人間離れ」と呼ぶのですが、
これこそがまさに
「思春期の悩み」なのでしょう。

この本を中学校1年生に
薦めたいと思います。
思春期にすでに入った
子どもであれば、
自分の抱えている悩みの正体に
気づくきっかけになるとともに、
自分一人ではないという
安心を得ることができます。
思春期が訪れていない
子どもにとっては、
自分がこれから迎える状況を
前もって理解できると思うのです。

子どものありのままの姿を描いた
椰月美智子のデビュー作です。
大人のあなたも読んでみませんか。

(2018.12.13)

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